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盛岡地方裁判所 昭和61年(ワ)371号 判決 1989年5月29日

原告

民部田秀夫

右訴訟代理人弁護士

石橋乙秀

被告

株式会社ヒノヤタクシー

右代表者代表取締役

大野泰一

右訴訟代理人弁護士

大沢三郎

主文

一  原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、昭和六一年六月からこの判決確定に至るまで毎月二五日限り金二二万七三二九円を支払え。

三  原告の賃金請求のうち、この判決確定後のものに係る訴えは、これを却下する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告は、原告に対し、昭和六一年六月以降毎月二五日限り金二二万七三二九円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五七年三月一日、被告に雇用された。

2  原告は、昭和六一年六月六日までは就労した。

3  被告は、昭和六一年六月七日原告を解雇したとして、同日以降の原告の雇用契約上の権利を否認し、その就労を拒否している。

4  原告の給与

(一) 原告の給与は、歩合給で、毎月二〇日を締切りとして二五日に支給される。

(二) 原告が昭和六〇年六月から昭和六一年五月までの間に毎月二五日に支給された給与の額は、次のとおりであり、一か月の平均給与は金二二万七三二九円となる。

昭和六〇年六月 金二二万一九九二円

同年七月 金二一万八〇四七円

同年八月 金二〇万六二五七円

同年九月 金二一万四〇七二円

同年一〇月 金二〇万七〇二一円

同年一一月 金二二万二一九〇円

同年一二月 金二七万六八七六円

昭和六一年一月 金二九万九六四一円

同年二月 金二三万七四五六円

同年三月 金二〇万二九四一円

同年四月 金一九万九〇八二円

同年五月 金二二万二三七五円

よって、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、昭和六一年六月二五日支給分以降の賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が被告に雇用されたことは認めるが、被告が原告を雇用した日は昭和五七年二月二四日である。

2  請求原因2ないし4の各事実は認める。

三  抗弁

1  原告の行為

原告は、次のとおり交通事故を起こした。

(一) 原告は、昭和五八年一月二五日午後八時ころ、盛岡市川目地内路上において、運転中のタクシーを方向転換のため丁字路に後進右折した際、丁字路角にあった電柱に同車左フロントフエンダー、ローアパネルを接触させて、金一万四三〇〇円相当の損傷を与えた。

(二) 原告は、昭和五八年七月二八日午後五時ころ、盛岡市高松四丁目において、運転中のタクシーを方向転換のため後進して空地に入れた際、同空地にあった高さ約一メートルの鉄柱に同車右側運転席ドアを接触させて、金三万一〇〇〇円相当の損傷を与えた。

(三) 原告は、昭和五九年八月一日午前一〇時一四分ころ、タクシーを運転して盛岡市中央通一丁目路上を市役所方面に向け進行中、中央通一丁目八―一三付近の十字路において、映画館通りに右折するに際し、対面直進する車両の動向を見きわめないまま、漫然と進行したため、対面直進してきた鹿志村某運転の乗用自動車の右後部車体に自車右前部を接触させ、相手方車に対し金一五万二九九〇円相当の、自車に金二万九〇〇〇円相当の損傷を与えた。

(四) 原告は、昭和六一年五月二六日午前八時三五分ころ、タクシーを運転し盛岡市高松二丁目上田深沢線路上を盛岡バイパス方面に向けて進行中、右折して同路に十字に交わる道路に入ろうと自車を右に転じ進行した際、折りから対面直進してきた八重樫眞運転の普通乗用自動車の右前部に自車左前部を衝突させ、相手方車のフェンダー、バンパー、ボンネット、ライト等を損傷して金二〇万円相当の損害を与えたうえ、自車のフェンダー、バンパー、ライト等を損傷して金二〇万円相当の損害を生じさせた。

2  原告の行為と解雇事由

(一) 被告では、就業規則二八条において次のように定めている。

「次の各号の一に該当するときは解雇する。

四  技能が著しく劣り上達の見込なく又は勤務成績が著しく悪く従業員として不適当と認めたとき。」

(二) 被告と原告が所属する全国自動車交通労働組合連合会岩手地方本部盛岡支部ヒノヤ分会(以下「ヒノヤ分会」という。)との間で締結している労働協約一一条は次のとおり定めている。

「会社は従業員が次の各号の一に該当する場合のほか、解職しない。但し、第五号あるいは第六号に該当し、解職する場合は組合の意見をきかなければならない。

六  職務の遂行に必要な能力を著しく欠き、且つ他の職場に転換することができないとき。」

(三) 前項1記載の事故は、いずれも原告の重大な過失、運転の稚拙さによるもので、その事故の態様、頻度、同種事故の繰返し等からみて、原告は注意散漫で改善される見込みがないと判断せざるを得ない。したがって、原告は無事故安全運転を至上命題とする旅客運送車両の運転者としての資質能力を欠く者であるといわざるを得ず、右就業規則二八条四号、労働協約一一条六号に該当するということができる。

3 解雇の意思表示

被告は、昭和六一年六月七日、原告に対し、同人を解雇する旨の意思表示をした。

四 抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(原告の行為)について

(一) (一)及び(二)の事実は認める。

いずれも障害物が見えにくかったものである。これらの事故について、原告は始末書の提出を求められず、賞罰委員会に諮られたこともなく、別段注意もされなかった。

(二) (三)の事実のうち、対面直進する車両の動向を見きわめないまま漫然と進行したことは否認し、その余は認める。

原告は、映画館通りに右折するに際し、対向車線の追越車線を走行してくる車両が見当たらないので、走行車線を走行してきた鹿志村某運転の乗用自動車が通過した後に右折しようと対向車線の追越車線に入って待っていたところ、右鹿志村運転の乗用自動車が速度を落としたので、譲ってくれると思い感謝の気持ちで頭を下げて右折したところ、右鹿志村車はそのまま進行したため接触したものである。

この事故についても、始末書の提出を求められず、賞罰委員会に諮られることもなかった。

(三) (四)の事実のうち、自車を右に転じ進行した際、折から対面直進してきた八重樫眞運転の普通乗用自動車の右前部に自車左前部を衝突させたことは否認し、その余は認める。

当時は朝のラッシュ時で渋滞していたので、原告車両も少しずつ上田深沢線上を盛岡バイパス方面に向け進行していたが、同路に交差する道路に入るためにまず対向車両が見えるように中央線をまたいだ位置で停止した。現場は左カーブであるうえ、渋滞していたので、中央線を越えないと対向車両が見えなかったのである。原告が停止すると対向車線の追越車線を八重樫眞運転の車両が進行してきた。原告は、よけてくれると思い右八重樫の顔を見ていたら、そのまま進行して衝突してきたのである。被告は右事故について初めて報告書の提出を求めてきたが、原告は停止していたものの中央線を越えていたため過失があると考え陳謝した。なお、右事故については、ただちに警察に事故報告がなされたが、原告は何ら行政処分を受けていない。

2  抗弁2(原告の行為と解雇事由)について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の事実のうち、被告とヒノヤ分会との間の労働協約が被告主張のとおり定めていたことは認める。

(三) (三)は争う。

抗弁1の(一)ないし(四)の事故は、いずれも原告に重大な過失があったとはいえず結果も軽微であり、行政処分すらなされていない。また、(四)の事故については相手方にも相当の過失がある。原告はタクシー運転手として事故が多いというわけでもなく、就業規則二八条四号にいう「運転技術著しく劣り上達の見込みなく」にあたるとして職場から排除しなければならないほどの理由は全くない。

3  3(解雇の意思表示)の事実は認める。

五  再抗弁

1  労働協約の失効

(一) 被告とヒノヤ分会との間の労働協約は、昭和五三年一一月一日に締結され一年ごとに自動更新されてきた。

(二) 右労働協約八〇条、八一条は、次のとおり定めていた。

「八〇条 協約の有効期間満了一か月前までに、会社又は組合のいずれからも協約改訂の申入れがないときは、有効期間到来後更に一か年間この協約と同一の労働協約をあらたに締結したものとみなす。

八一条 前条の改訂申入れがあった場合に期間満了までに新協約が締結されないときは期間満了後三か月間有効とする。」

(三) ヒノヤ分会は、昭和五九年九月二九日に、被告に対し、右労働協約の全面改訂要求を行った。それにより、右労働協約は、右八〇条、八一条によって期間満了の同年一〇月三一日から三か月を経過した昭和六〇年二月一日をもって失効した。

2  不当労働行為

(一) 被告は、かねてより組合活動を嫌悪していたが、ヒノヤ分会が全国自動車交通労働組合連合会に加盟した昭和五八年四月ころからは、新規採用はすべて嘱託という名称で雇用するようになった。これは、被告とヒノヤ分会との労働協約一条一項及び三条には、「組合は会社の従業員をもって組織」し「嘱託員は従業員でない」と規定していたことから、これを奇貨として嘱託と称されている者の組合加入を認めず、ヒノヤ分会の組合員減少をねらったものであった。

(二) 嘱託として雇用された者は、勤務内容は通常の乗務員と同様でありながら、有給休暇も退職金制度もなく勤務形態も劣悪であることから、一六名の者がヒノヤ分会に加入したところ、被告は、昭和六〇年五月二四日付け文書をもって、同人らを同年六月二四日限りで解雇する旨の通知をした。

(三) また、ヒノヤ分会は、被告との間で乗務中の事故に関する損害の負担について団体交渉を継続しており、妥結するまでは支払わないという方針であったが、それにもかかわらず、被告は一方的に負担額を定め、ヒノヤ分会の組合員に請求をしてきている。千坂實は、乗務中の事故について被告から一方的に損害を負担するように求められ、同人はヒノヤ分会との間の交渉が妥結したら支払うといって支払を拒否したところ、昭和六一年四月五日解雇された。

(四) 更に、被告は、ヒノヤ分会副委員長浅沼次男及び書記長田山正志に対し、被告の許可を得ずに組合活動を行ったという理由で、七日間の出勤停止処分を行った。しかし、同人らは、被告に対し従前どおり届出をしており、出勤停止処分を受けるような理由は全くなかった。

(五) 以上のとおり被告はヒノヤ分会の組合活動を嫌悪してきたところ、たまたま原告が事故にあったことからその事故が原告の一方的な責に帰すべき事由によるものであると強弁して本件解雇に及んだものである。これはヒノヤ分会の各組合員を威嚇して不安を与え、組合を脱退させ又は組合活動を抑制させる意図の下になされたもので、不当労働行為にあたるというべきである。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1  再抗弁1について

(一)(一)、(二)の各事実は認める。

(二) (三)のうち、ヒノヤ分会が労働協約の全面改訂要求をしたことは認めるが、労働協約が失効したことは争う。

2  再抗弁2について

(一) (一)の事実のうち、被告が嘱託として採用した者をヒノヤ分会の組合員とは認めていないことは認め、その余は否認する。

(二) (二)の事実のうち、被告が昭和六〇年五月二四日付け文書をもって一六名の者に対し同年六月二四日限り解雇する旨の通知をしたことは認めるが、その余は否認する。

被告が右解雇予告をしたのは、右一六名の嘱託が、昭和六〇年四月、通知通告書によって、被告に対し、労働組合に加入したことを通知し、その加入に伴い雇用契約上の労働条件が改変され、嘱託以外の組合員の労働条件と同等となったとして、有給休暇を保障すること、退職金制度等を承諾するよう求めたので、被告において、それは、嘱託雇用契約の内容である労働条件を一方的に改変しようとするもので自ら嘱託雇用契約を破棄することを意味するものであると理解したことによるものである。その後、岩手県地方労働委員会の斡施に基づき、右嘱託らは右通知通告書を撤回し、被告は解雇予告を撤回し、嘱託の労働条件については、労使間で協議することとして、右紛議は解決した。

(三) (三)の事実のうち、被告が千坂實を解雇したことは認めるが、その余は否認する。千坂に対する解雇の理由は、同人が交通事故を頻発させたことに鑑みタクシー乗務員として適性を欠くと判断したこと、事故発生につき反省悔悟の念がみられなかったこと、会社の信用を失墜させ、上司を侮辱する言動があったことによるものである。

(四) (四)の事実のうち、被告が浅沼及び田山に対し出勤停止処分をしたことは認めるが、その余は否認する。

浅沼、田山に対する処分の理由は、両名が、昭和六一年五月九日被告の承諾を得ることなく就業時間内に全自交岩手地方盛岡支部執行委員会に出席して組合活動を行ったことであり、これは、労働協約、就業規則に照らして懲戒の事由に当たるものである。

(五) (五)は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1ないし3について

1  請求原因1の事実のうち、原告が被告に雇用されたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五七年二月二四日に雇用されたと認められる。

2  請求原因2及び3の各事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1(原告の行為)について

(一)  抗弁1の(一)、(二)の各事実及び抗弁(三)の事実のうち対面直進する車両の動向を見きわめないまま漫然と進行したこと以外の事実は当事者間に争いがない。この争いがない事実に、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和五八年から五九年にかけて、次のような事故を起こした。

(ア) 原告は、昭和五八年一月二五日午後八時ころ、盛岡市川目地内路上において、運転中のタクシーを方向転換のため丁字路に後進右折した際、丁字路角にあった電柱に同車左フロントフエンダー、ローアパネルを接触させて、金一万四三〇〇円相当の損傷を与えた。

(イ) 原告は、昭和五八年七月二八日午後五時ころ、盛岡市高松四丁目において、運転中のタクシーを方向転換のため後進して空地に入れた際、同空地にあった高さ約一メートルの鉄柱に同車右側運転席ドアを接触させて、金三万一〇〇〇円相当の損傷を与えた。

(ウ) 原告は、昭和五九年八月一日午前一〇時一四分ころ、タクシーを運転して盛岡市中央通一丁目路上を市役所方面に向け進行中、中央通一丁目八―一三付近の十字路において、映画館通りに右折するに際し、対面直進する鹿志村某運転の乗用自動車を認めたが、同車が速度を落としたため、進路を譲ってくれたものと誤解し、右折進行したところ、直進してきた右鹿志村運転の車両の後部に自車右前部が接触し、相手方車に対し金一五万二九九〇円相当の、自車に金二万九〇〇〇円相当の損傷を与えた。

(2) 右の各事故について、原告は、被告から始末書の提出を求められていないし、特段処分もされていない。

(二)  抗弁(四)の事実のうち、自車を右に転じ進行した際折から対面直進してきた八重樫眞運転の普通乗用自動車の右前部に自車左前部を衝突させたこと以外の事実は当事者間に争いがない。この争いがない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和六一年五月二六日午前八時三五分ころ、タクシーを運転し盛岡市高松二丁目上田深沢線路上を盛岡バイパス方面に向けて進行中、右折して同路に十字に交わる道路に入ろうとしたが、朝のラッシュ時で渋滞していたうえ道路が左にカーブしていたので、対向車線を走ってくる車の状況が見えにくかった。そこで、原告は、中央線を斜めにまたいで自車の一部を対向車線の側に出し、中央線をまたいだまま少し直進したところ、折りから対面直進してきた八重樫眞運転の普通乗用自動車の右前部が自車右前部に衝突し、相手方車のフェンダー、バンパー、ボンネット、ライト等が損傷して金二〇万円相当の損害が生じたうえ、自車のフェンダー、バンパー、ライト等が損傷して金二〇万円相当の損害を生じた。

(2) 右事故の直後現場へ赴いた被告会社の伊藤吉治本社営業部次長(以下「伊藤次長」という。)に対し、原告は、「事故を起こしてすみません。」と言って謝った。

(3) また、伊藤次長は、相手方車両を保有していた南光警備保障株式会社と右損害の負担について交渉を行った。その結果、相手方車両を被告が費用を負担して修理することで話がまとまった。当初、南光警備保障株式会社の担当者は、右車両を営業に使っているので、右車両を使えない間代わりの車両を用意してほしいと述べていたが、結局は話し合いで、代わりの車両の請求はしないこととなった。一方、原告が運転していた車両は、購入してから年月がたっていたことや自動車検査証の有効期限が近づいていたことから、被告では、修理することなく廃車にした。

(4) 被告は、昭和六一年五月二七日、原告に対して、右事故に関する報告書及び始末書の提出を求め、原告はこれらを提出した。

(5) 被告は、昭和六一年六月二日、原告が右事故を起こしたことから、原告の処分について賞罰委員会を開催し、関係者から事情を聴取した。原告は、右事故を起こしたことについて「大変申し訳ない。」と謝罪した。ヒノヤ分会の代表者は、原告を辞めさせないでもらいたい旨述べた。しかしながら、賞罰委員会は、原告を解雇することが相当である旨の結論を出し、被告会社代表者にその旨の上申をした。

なお、賞罰委員会は、被告会社の大野耕平専務取締役、伊藤次長、大野尚彦営業課長によって構成されていた。

(6) 被告は、昭和六一年六月七日原告に対し、同人を解雇する旨の意思表示をした。

2  抗弁2(原告の行為と解雇事由)について

(一)  就業規則二八条四号所定の解雇事由について

(1) 抗弁2の(一)の事実(就業規則二八条四号の規定)については当事者間に争いがない。

(2) そこで、原告が右規定に該当するか否かについて判断する。

(ア) 原告は、前記1認定のとおり四回にわたり事故を起こしたと認められる。

(イ) しかしながら、

(ⅰ) 右の各事故のうち、前記1の(一)の(1)の(ア)、(イ)の各事故はかなり軽微なものであるうえ、原告は、前記1の(一)の(1)の(ア)ないし(ウ)の各事故について被告から始末書の提出を求められたり処分を受ける等していない。

(ⅱ) 右の各事故のうち最も結果が重大で被告も重視しているのは、前記1の(二)の(1)の事故であるところ、右事故については、たしかに不用意に対向車線に出た原告に過失はあるが、前記認定の事実からすると原告が対向車線に出てから衝突するまである程度の時間の経過があったと認められ、そのことからすると、相手方にも前方不注視の過失があったということができる。したがって原告の一方的過失によるものということはできない。また、原告は、右事故について謝罪し、反省の意を表している。

(ⅲ) 右の四回の各事故を通じ人身損害が生じたと認めるに足りる証拠はなく、また、原告が右の各事故について何らかの刑事処分、行政処分を受けたと認めるに足りる証拠もない。

(ⅳ) 原告は、約四年三か月にわたる被告における稼働中に右の四回の事故を起こしたものであるところ、最初の事故(前記1の(一)の(1)の(ア)の事故)と第二の事故(前記1の(一)の(1)の(イ)の事故)との間隔は約六カ月であるが、第三の事故(前記1の(一)の(1)の(ウ)の事故)は第二事故の約一年後に、第四の事故(前記1の(二)の(1)の事故)は第三の事故の約一年一〇か月後に起こされたものであり、原告が短い期間に事故を頻発させたということはできない。

(ウ) 以上述べたところを総合すると、たしかに右の各事故を起こしたことは好ましいことではないが、そのことを理由に、原告の「技能が著しく劣り上達の見込なく又は勤務成績が著しく悪く従業員として不適当」であるとまでいうことはできず、原告が就業規則二八条四号に該当するということはできないというべきである(なお、右就業規則二八条の文言は、「従業員として不適当と認めたとき」となっているが、右規定の目的、性格等からすると、使用者が主観的に不適当と認めただけでは足りず、客観的に不適当と認められることが必要であるというべきである。)。

(二)  労働協約一一条所定の解雇事由について

被告とヒノヤ分会との間に労働協約が存し、その中に被告が抗弁2の(二)で主張するような条項(労働協約一一条)が存したことは当事者間に争いがないが、原告は、右労働協約はすでに失効したと主張し(再抗弁1)、被告はこれを争っている。

しかしながら、右労働協約一一条六号の趣旨は、その文言、規定の性格等に照らすと、前記就業規則二八条四号の趣旨を出るものではないと解されるので、前記のとおり原告が右就業規則二八条四号に該当しないと解される以上、右労働協約一一条六号にも該当しないというべきである。

したがって、労働協約がすでに失効したかどうか等について判断するまでもなく、被告の主張は失当であるというべきである。

(三)  以上の次第で、不当労働行為の点について判断するまでもなく、被告主張の解雇はその効力がないというべきである。

三  請求原因4の事実(原告の一か月の平均給与は金二二万七三二九円であること)は当事者間に争いがない。

四  結論

以上の次第で、原被告間には、雇用契約が在していると認められるところ、被告は、これを否認し争っているのであるから、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有することを確認するとともに、原告の毎月二五日限り金二二万七三二九円を支払えとの賃金請求のうち、過去の分についての賃金請求は理由があるのでこれを認容することとする。右賃金請求のうち、将来の分に関しては、本判決確定までの間の分については、予め請求する必要性があるということができるが、確定後の分については、本判決が確定すれば被告の対応も変わるものと推認されるので、予め請求する必要性がないものと解され、したがって、本判決確定までの間については認容することとし、確定後については、訴訟要件が欠けるので、訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森義之)

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